家具木工よもやま話

修業

私は、木工とはまるで無関係な組織に20年間勤めたのち、家具職人に転じました。当然ながら、「修行」について深く考えぜるえませんでした。

家具や木工職人の技術習得について一番に思いつくのが「修行」だと思うのですが、ある程度の年月をかけ誰かに師事し、その技術や精神性を教えてもらう事だと思います。私自身が長期の修行経験がありませんので実際のところが解っていません。そもそも現在において本当に「修行」という仕事環境はあるのかとも思っています。

若いころから家具会社で働いていた知人がいますが、話を聞いている限り修行と言うより普通に賃金をもらい働いていたという印象です。実際に多い例は、大きな家具工場で生産ラインとは言わないまでも、個々の技量が生産性に影響しない様、ひとつの持ち場を任されているケースです。これに関しても修行と言うよりは労働者として普通に働いているといった印象です。実際、厳しい経営環境の中に取り込まれ、効率優先で働く事が多く、職人的技術やその精神性まで鍛えながら広範囲に教えてくれる、いわゆる「修行」の場は現在では減ってきていると思います。

実は私自身がこの修行環境を真剣に探していた時期があったのですが、当時私が思い描いていた理想の修行環境と言えば「出来るだけ短期間で家具製作のあらゆる技術を教えてくれるところ」でした。今考えると本当に虫のいい話なのですが、年齢的な事もありましたし、製作概要とか業界のノウハウを短期に教えてもらえれば後は自らの社会経験で何とかするから・・みたいな考え方で完全に舐めていました。しかし、そんな虫のいい話は日本中探してもどこにもなくて、今だから言えますが経営者サイドからすると、年をとった独立志向の男など最も雇いたくないタイプになると思います。

話がそれましたが、オーダー家具や店舗什器を幅広く作る小規模な家具会社や木工所であれば大きなメーカーの様にひとつの持ち場を任されるのではなく、否応がなく幅広い仕事の仕方を強いられると思いますし、そのような形態の会社であればかなり広範囲な技術が得られると思いますので、現在では、そのようなタイプの家具製作所や木工所が私が考える修行環境に近いように思いますが、このような多種製作型の小規模工房が少ないのも事実です。

いずれにしましても、ある程度の期間じっくりと時間をかけて取り組む事が前提となる事は言うまでもありません(自らの事は棚に上げて)。また、若いころはあらゆる仕事において修行的気持ちで取り組まなければならないとも思います。